バイオリンという対等なパートナーを必要として生まれた音楽

「春」は、厳しい冬の後に雪が解け、草が芽吹き、花が開く季節です。


今でこそ「ヴァイオリンソナタ」の主役といえばヴァイオリンと思われますが、もともとはピアノソナタにヴァイオリンの助奏がつけ加わる形で生まれました。

そんな中、ヴァイオリンがピアノが対等なパートナーとしての果たすようになるのが、このヴァイオリンソナタ第5番です。

ベートーヴェンといえばピアノソナタの大家で、ピアノだけで十分に豊かな音楽を創造することのできました。

そんな彼が30代を迎え、バイオリンという対等なパートナーを必要として生まれた音楽が、こんなにも明るく爽やかな「芽吹き」を感じさせるのはとても興味深いです。

「春」という副題はのちの人々が呼んだ愛称ですが、まるで、そよ風や嵐・雲の翳りを描写するような音楽の陰影は、「田園交響曲」やヴィヴァルディの「四季」のような、どこか詩的な性質があって、絶対音楽の作曲家である彼にとって「詩」が、その後どのように音楽のなかに息づいていったのか、その「芽吹き」をこの曲に感じることができるような気がします。