むかしの人の定休日を作る智恵 六曜と天体運動

ちょっと予定を決めることがあって、カレンダーを見ていると「大安」とか「仏滅」の文字が目に留まりました。

六曜(ろくよう・りくよう)」です。

今日は、六曜について調べて思うことを書いてみます。






Wikipediaの「六曜」の項を見てみたら、六曜の生まれた経緯や、広がったきっかけなどが書いてありました。

意外と普及したのは江戸時代・明治時代と最近なんです。

とくに明治5年(1872年)の改暦によって逆に広まった、というのが面白いです。

「迷信の否定」と強く主張された時期というと、フランス革命を思い出しますが、それくらい近代化にとって「迷信」は目の敵なのかもしれません。

そこで、明治に新暦にかわると、公的な暦に「吉凶付きの暦注」を表示することは「禁止」されてしまいます。

すると、逆に暦注をつけた民間の暦に人気が出るようになったというのです。

禁止されると反発する、禁止されると気になるのが庶民感覚なのかもしれません。

とはいえ、現在では目の敵にもならず、徐々に忘れられつつある文化になっているようで、それが独特の魅力をもっているようにも思います。

ちなみに今の暦では六曜は規則的ではなくなってしまいましたが、旧暦では規則正しく、月と日のあまりによって計算できました。



(月+日)÷6=?…あまり
あまり0 大安1 赤口2 先勝3 友引4 先負5 仏滅

旧暦と天体運動

そこで「旧暦」って何だろうということなんですが、旧暦とは明治の改暦の前に使われていた暦のことです。

ですが、考えてみれば当たり前なんですが、それ以前はずっと同じ暦を使っていたかというと、そういうわけでもありません。

旧暦というのは、江戸時代につくられた天保暦のことであり、これは太陰太陽暦の暦法の一つです。

まず、シンプルな太陰暦というのは、月の満ち欠けを区切りにする暦です。

新月ごとに月を改め、日付を1から起算していきます。

ただ、月の公転周期は約29.5日と誤差があるために、ひと月は29日になったり、30日になったりします。

基本的には29日と30日の交代で進みますが、厳密な月の公転周期の誤差を調整するために3年に一度一日分の閏月をつくっています。

季節と閏月

いっぽうで一年の区切り方は基本的には地球の公転周期を区切りにしています。

夏至から夏至まで、春分から春分まで1年のように、太陽の高度の変化を一区切りにしています。

さきほどの 月 を12回繰り返すとおおむね一年分になるのですが、実際の天体運動に比べると11日ほど短いため、3年たつとひと月分もずれてしまうことになります。


それをそのままにしてしまう暦法もあります。

しかし、月数と季節の関係を一致させておくと便利です。

そこで、太陰太陽暦では 閏月 を作って微調整することにしました。



さて、1月や2月をいつに決めるかについてはいろいろな方法がありますが、天保暦では太陽の位置を計ってきめることにしました。

簡単に言うと、「春分の日」、つまり昼と夜の長さが同じ日が含まれている月は、その月全体を「2月(如月)」にする、というような方法です。

太陽高度のチェックポイントを12個作って、どれが含まれているかで何月かを決めることにしたわけです。


このチェックポイントを「中気」といいます。

太陰暦のひと月は29日か30日なので、中気を1個も含まない、残念な月も出てきます。

それは閏月になります。


例外処理:旧暦2033年問題

ただ、多くのルールに例外的なケースがあるように、この天保暦というアルゴリズムにも深刻な例外が起こりえます。



img


引用元:wikipedia


詳しい話は、引用元のwikipediaを見ていただくとして、2033年は何月か決められない、ということが起こるのです。

チェックポイントが境界ギリギリにあったら、どうなるの?ということです。

新暦でいう2033年7月26日 から2034年4月19日の10カ月の間には厳密に計算すると、中気を含まない閏月が3つもあります。

さらに、中気を2つ含む月も2回あります。


どうして、一つの月に中気が2回あるのでしょう。

365日を単純に12等分すれば30.4日の周期になる(平気法)ので、30日の間に2回 中気のタイミングになることはありません。


ところが、天保暦ではもっと厳密に太陽高度を測って決めている(定気法)ので、中気の周期が一定ではありません。

そこで、中気を2つ含む月が生まれてしまいます。

先人はどう解決していたか?

一応、解決方法は、月名の決定方法に優先順位を付けることです。

ざっくりいうと、冬至を含む月をなにがなんでも11月と決めてしまって、閏月の候補が2つあったら早いもの勝ちにする、ということです。

これは、清の時代に中国で採用されていた方法のようです。


あと、もう一つの解決法は、いっそのことシンプルな平気法に戻してしまうということです。



新月時刻中気時刻中気時刻天保暦清の時憲暦平気法の中気平気法
2033年7月26日 17:122033年8月23日 4:037月7月2033年8月22日7月
2033年8月25日 6:40?月8月2033年9月21日8月
2033年9月23日 22:392033年9月23日 1:528月?9月2033年10月22日9月
2033年10月23日 16:282033年10月23日 10:27?月10月2033年11月21日10月
2033年11月22日 10:392033年11月22日 9:142033年12月21日 22:4511月?11月2033年12月21日11月
2033年12月22日 3:46?月閏11月閏11月
2034年1月20日 19:012034年1月20日 9:282034年2月18日 23:31?月12月2034年1月21日12月
2034年2月19日 8:10?月正月2034年2月20日正月
2034年3月20日 19:152034年3月20日 22:172月2月2034年3月23日2月
2034年4月19日 4:262034年4月20日 9:033月3月2034年4月22日3月

実は、どちらの解決方法でも同じ月が閏月扱いになります。


このように、太陰太陽暦と一くくりにしても、いろいろな閏月の決め方があり、微妙なケースの処理に苦心してきたんようです。

天体運動のズレを丸めるためのアルゴリズムです。

定休日の作り方

さて、話のもとになった六曜に戻ってみます。

六曜の計算式は、先ほどの暦に比べるとあまりにシンプル。

旧暦の月と日を合計して6の剰余です。


(月+日)÷6=?…あまり あまり 0 大安 1 赤口 2 先勝 3 友引 4 先負 5 仏滅


したがって六曜は基本的には6日周期です。



よくよく見てみると、月~日曜の7つの曜日と先勝~赤口の6つの曜日は、本質に似たものであることに気づきます。

いま、7つの曜日をみて、神秘的な何かを感じる人はそこまで多くはないでしょう。

ただ、平日と休日を区切るためのものです。

とくに学校や官庁のサイクルに影響を受けながら、社会全体が動いているため、曜日は生活に密着しています。



現代人が週5日で働くのが標準的なように、たぶん、昔の人も毎日働き続けるのは大変だから、5日働いたら一度くらいは休もう、と思ったと思うんですよね。

そこで、仏滅です。

仏滅や赤口といえば、縁起の悪い日ですが、どうしてこういう日が必要なのでしょう。

思うに「この日は縁起が悪い」ということで、行事の予定を入れず、ゆるゆるとお休みにするための口実だったのではないでしょうか?

安息日と同じ考え方だったんではないかな、と思います。

七曜との違い

2000年の1月1日が何曜日なのかを計算するのは、ちょっと面倒です。。

一応、曜日計算のアルゴリズムというのはいくつかあり、コンピュータを使えばすぐに計算できるのですが、人間の暗算ではかなり数字に強くないと難しいようです。

ただし、曜日そのものは7日周期で進みます。


しかし、六曜は旧暦を使っていれば、だれでもすぐに計算できます。

ただ、六曜の計算方法だと月数を計算に入れているので、月をまたぐときに周期が乱れます。

1/29→あまり0 大安

2/1→あまり3 友引(あれ、赤口と先勝がとんだ)

したがって、六曜を新暦でみると、不規則に動いているように見えます。

だからこそ、余計に神秘的な感じがします。

六曜との付き合い方

ただ、六曜というのは蓋開けてみると、神秘的なものというより人間的です。

まず、六曜計算のもとになる月数というのが、どこを閏月にするかで変わる、けっこう人為的なものです。

働くための適当な周期性を暦に与えるという、実用的なものだったのではないでしょうか。

もちろん、世の中の多くの人が六曜を意識していればしているほど、その通りになります。

また、古くから人々がそれを使いたくなるような力があるのかもしれませんので、まったくの迷信とも言い切れません。


ただ、今の時代にあんまり気にしすぎると、「仏滅」も「日曜日」も仕事はしない、ということになってしまうわけです。

それはすごくいいかも…


っではなくて、気にしすぎずに上手に付き合うといいんだろうな、と思います。



さて、今日は赤口、アップするなら正午すぎの今が大丈夫、と。


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