モーツァルトの「2台のピアノのためのソナタ ニ長調 K.448 (375a)」の楽曲紹介

皆さんは、モーツァルトの「2台のピアノのためのソナタ ニ長調 K.448 (375a)」をご存知ですか?



「のだめカンタービレ」で、のだめと千秋が一緒に弾いたことで記憶している方もいるかもしれません。

少し、この曲について思うことを書いていますね。




2台のピアノのためのソナタとの出会い

わたしが初めてこの曲に出会ったのは、学生時代に先輩たちが弾いていたときです。

第一印象は、まるでシンフォニーとコンチェルトを足したみたいな、不思議なピアノ曲だと思いました。



2台のピアノが交互に同じ旋律を演奏したり、呼応したりするとても充実した名曲です。

たった2人で演奏しているのに、協奏曲のように火花が飛び散り、交響曲のように世界が創造されていくんですよね。

作曲の時期や背景

少し、この曲の作曲された背景について書いてみます。

この曲は1781年モーツァルト25歳の時に、弟子と共演するために作曲されました。

弟子の練習のために、こんなにも素敵な曲を作ってしまうのだから、ホントにモーツァルトは不思議な人です。

実は、モーツァルトが完成させた「2台のピアノのためのソナタ」はこの一曲だけなんです。
モーツァルトは生涯で約600曲(断片もあるので数えにくい)ほど作曲したらしいよ

ヨゼファ・アウエルンハンマー

演奏会では、第二ピアノをモーツァルトが、第一ピアノを弟子のヨゼファ・アウエルンハンマーが演奏しました。

モーツァルト自身は2歳年下のヨゼファをどう思っていたのでしょう。

モーツァルトは父へあてた手紙には、ヨゼファについて「うっとりとさせるような演奏」をする優れたピアニストであるものの、「化け物のようなブス」と酷評です。

ヨゼファの方はというとモーツァルトへの恋心からだいぶ強引にアタックしていたみたいで、モーツァルトはこの「愛弟子」に少し閉口していたようです。

とはいえ、「永遠の悪ガキ」モーツァルトの性格を考えると、「あんなブス、ぜんっぜん好きじゃねーし」というのは…どうなんでしょうね。

コンプレックスと恋心

モーツァルトは、ヨゼファとの出会いを以下のように記しています。

彼女は言いました。「私は美しくありません。ああ、それどころか醜いです。年収3~4000グルデンの官庁のお偉方などと結婚したくはないし、他の男を手に入れるなんてできそうもない。だから、このまま独りでいて、自分の才能で生きて行きたいんです」と。これはもっともなことです。そこで彼女は、その計画を実現するために、ぼくの助けを求めたわけです。――でも彼女はあらかじめそれを誰にも打ち明けたくないのです。
(1781年6月27日付の父に宛てた手紙)

ヨゼファが自身の容姿について、深いコンプレックスを抱いていたことがうかがえます。

モーツァルトは彼女にとって、誰からも隠している自分のもっとも深い悩みを打ち明けることのできるお兄さんだったんですよね。

モーツァルトは、音楽を聴いてもこだわりのない、天衣無縫というような性格で、かなり下品なところもあるけど、なんかあけっぴろげで憎めないひとなんですよね。

多忙にもかかわらず、モーツァルトは彼女のためにに毎日2時間ものレッスンをし、彼女の父親が亡くなったときには、身を寄せる先を探してあげたりもしました。

生涯ただ一つの2台のピアノのためのソナタ

モーツァルトは、この曲を通してヨゼファの才能と本気で向き合っているように思います。

でも、彼女の恋心を知るからこそ、一台のピアノを隣り合って連弾するわけにもいかなかった。

だから、生涯でこの曲だけは2台のピアノソナタなんですよね。

なんか青春です…。

のだめと真一の共演

さて、最後に「のだめカンタービレ」のなかでのこの曲の意味合いについて、少し触れておきます。

のだめカンタービレの主人公は、千秋真一と野田恵の二人です。

エリート音大生・千秋真一は過去の恐怖体験のトラウマから、将来に行き詰まりを感じて思い悩んで自暴自棄になっていました。

そんな時に、ゴミの山に囲まれて美しいピアノソナタを奏でる女性に出会います。「のだめ」はこのヒロインの野田恵の愛称です。

楽しさとやる気とオチ専と

この2台のピアノのためのピアノソナタは、谷岡先生のすすめで、のだめと千秋がはじめて共演した曲で、これをきっかけに千秋は音楽による感動を思い出します。

谷岡先生もまた素敵な先生なんですよね。

彼は学生たちから 「オチ専」 というあだ名をつけられています。

「落ちこぼれ専門のダメ先生」という意味です。

彼自身が自分のことを

「ぼくはね、やる気のない生徒にやる気を出させるほどやる気のある教師じゃないんだよ。」

と言っているんですが、そんな彼が千秋に音楽の楽しさを思い出させるんですよね。

指導者というのは、いろんな在り方があるんだと思います。

この2台のピアノのためのソナタには、幾重もの恋と指導が重なるように思います。

音色のコントラスト

今回、ファミコン音源に編曲するにあたっては、2台のピアノのコントラストを意識しました。

通常の録音では、2台のピアノのパートを聞き分けるのは意外に大変です。

気軽に掛け合いの楽しさを聞き分けられるように、第一ピアノは、シンプルな矩形波なのに対して、第2ピアノは、デューティー比を変更してやや硬めの音色にしました。

まぁ、自分が聞き分けられるようになりたかったからなのですが…。

ここでは、約8分の第1楽章のうちの約2分半ほどの提示部を演奏しています。

もし興味が湧いたら、実際の演奏を聞いてみてください。