短編なので読みやすい?
ロシア文学というと、ドストエフスキーもトルストイも、上中下と3巻に渡るような長い作品が多いので、これまでためらっていました。この本は、トルストイの書籍の中でも、150ページ足らずなので、なんとか手を出してみることができました。
悲愴交響曲
そもそもこの本を読もうと思ったのは、チャイコフスキーの「悲愴」です。交響曲第6番「悲愴」をひさびさに聞くと、陰鬱とした暗さやどす黒い情念だけでなく、賛美歌のような救いを求める響きが聞こえるように思います。
そこで、なんとなく同時代のロシアのロマン主義がどんなものなのか、興味が出てきました。
というのも、チャイコフスキーの「悲愴」には、甘美ロマンチシズムだけでなく、深い苦悩や罪の意識を感じるからです。
ちなみに、「悲愴」はpathetiqueというフランス語由来で、passionと同じく、もともとはギリシア語のパトスを起源にします。
クラシック音楽の文脈では「passion」というと受難曲も想起されます。
ロシア文化
ロシアはヨーロッパ文化圏の中でも異色を放っています。古くはキリル文字やギリシャ正教の影響、そしてコサックなどのアジア系異民族の影響もあり、独特の文化を形づくっています。
冷戦後のいまでもロシアは価値観において欧米とは一線を画しているように思います。
1893年に
トルストイは1828年に生まれ、1910年に没しています。19世紀のロシア文学を代表する作家と言われています。
一方でチャイコフスキーは1840年生まれの1893年になくなっています。
くしくも「光あるうち光の中を歩め」は、最初のロシア語版の出版が1893年ということで、まさにチャイコフスキー最晩年、つまり「悲愴」交響曲と同時期に構想・出版されました。
倫理と苦悩
キリスト教的な倫理観と俗世界における煩悩の対立は、チャイコフスキーにも大きなテーマです。古代の理想像である古典主義と、近代の実像であるロマン主義・民族主義とを統合するというのは音楽のライフワークでした。
また、キリスト教には認められない「同性愛」というのも、チャイコフスキーにとっては重大なテーマです。
いずれも、精神と肉体において精神に優位性を求めた、近代という時代を象徴する苦悩なのかもしれません。
キリスト教と共産主義
この「光あるうち光の中を歩め」という本は、まさに古代キリスト教の原理主義と当時まだ危険思想であった共産主義が大きなテーマになっています。アメリカの資本主義がプロテスタントに立脚する、というのはマックスウェーバーの説です。
ロシアの共産主義も形は違えど、原始キリスト教に基盤があるということはとても興味深いです。